今夜はいい夜だ。
僕は講義の時間を待っていた。
さっきから二時間ほど、ここに座ったまま夜空を見上げている。
月明かりに照らされるニワトコが、寂しくも美しく佇んでいた。
ここが待ち合わせの場所。
あ……来た来た。
「あぁ、また眼が悪くなったかな。
たったこれだけの距離で迷子とは……」
歩き疲れたのか、弱々しく片手を上げて挨拶する老人。
彼の名はリムンド・コッカー、齢312歳の地棲民だ。
でも、迷子と云うには歳を取りすぎている。
「ランプが無きゃ迷いますよ、どうやってここまで?」
足元が覚束ないようなので、僕は駆け寄った。
一息ついてから手拭いで顔を拭き、
どっこらしょと小岩に腰を下ろした。
「これじゃよ、ほれ…お前さんの注文した物じゃな」
岩肌のような手が物々しい柄を握り、鞘からそれを引き抜いた。
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