■大海原の銛 「マトック」 (Mattock)
  学名:イオサ・メル・サノリクス
  Iosual - mer xanolixe

全長は雄・50〜60m、雌・70〜95mである。
広大な海における目まぐるしい世代交代の中、
大海神」が発見されるまでの三百年にも渡り、
数ある海域で王者の名を欲しいままにした遊泳個体。
気性の荒さと異様な形相から長年恐怖の対象となった。

「根堀鍬」のような面持ちからこの俗称で呼ばれるが、
他に体側の発光斑が九つの固定数で配列されているため、
「ナイン・スポット(九つの斑)」と呼称されたり、
長い顎先を銛(もり)に見立て「ハープーン」とも呼ばれる。

主に水深:200〜1000m までの層域に棲息するとされるが、
水面上層から一気に水深3000mまで潜水する脅威の肺を持ち、
独自の発光器官から暗黒に近い深海付近でも活動できる。
発達した筋肉から繰り出される泳進速度は、150ノットを記録した。
繁殖期を除き群れをなさず、単独で活動するのも本種の特徴である。

本種の見所は長く伸長した顎にあるが、特筆すべきは眼球であり、
多くの魚類が眼球を頭蓋へ据えるのに対し、本種は顎部に位置する。
このため、咀嚼運動は「額」にあたる部分で行う奇妙な個体である。
従って本種は元来、上下逆さまに見るべき個体かも知れない。

獲物を見付けると目標めがけて突進し、一撃で仕留め、
獲物が絶命するまでは決して食さない。
主食となる獲物は大柄な体型に反し、1・2週間に一度の割合で、
クジラ等の小型種を捕食し、その間は絶食状態となる。

個体数は少なく、胎性である本種の出産率は低いが、
親魚は稚魚の世話をする習性もあり、この時期だけが大人しい。
稀に出産直前の雌魚が著しく体力を消耗するため、
滋養目的で雄を食い殺すと云う実例も有る。

また、威嚇時や繁殖期に感情が高揚した際には、
ひれや体側の発光斑が鮮やかな光を放ち、
滅多に見られることのない美しい婚姻色が並ぶと云う。

本種は冬期になると熱帯海水域へ移動を始める。
年間を通して一定の海域を広く周回する性質も有る上、
稀に汽水・淡水域での発見例もある。
彼らの適応範囲は驚くべきものと云えよう。

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