全長は雄・50〜60m、雌・70〜95mである。 広大な海における目まぐるしい世代交代の中、 「大海神」が発見されるまでの三百年にも渡り、 数ある海域で王者の名を欲しいままにした遊泳個体。 気性の荒さと異様な形相から長年恐怖の対象となった。 「根堀鍬」のような面持ちからこの俗称で呼ばれるが、 他に体側の発光斑が九つの固定数で配列されているため、 「ナイン・スポット(九つの斑)」と呼称されたり、 長い顎先を銛(もり)に見立て「ハープーン」とも呼ばれる。 主に水深:200〜1000m までの層域に棲息するとされるが、 水面上層から一気に水深3000mまで潜水する脅威の肺を持ち、 独自の発光器官から暗黒に近い深海付近でも活動できる。 発達した筋肉から繰り出される泳進速度は、150ノットを記録した。 繁殖期を除き群れをなさず、単独で活動するのも本種の特徴である。 本種の見所は長く伸長した顎にあるが、特筆すべきは眼球であり、 多くの魚類が眼球を頭蓋へ据えるのに対し、本種は顎部に位置する。 このため、咀嚼運動は「額」にあたる部分で行う奇妙な個体である。 従って本種は元来、上下逆さまに見るべき個体かも知れない。 獲物を見付けると目標めがけて突進し、一撃で仕留め、 獲物が絶命するまでは決して食さない。 主食となる獲物は大柄な体型に反し、1・2週間に一度の割合で、 クジラ等の小型種を捕食し、その間は絶食状態となる。 個体数は少なく、胎性である本種の出産率は低いが、 親魚は稚魚の世話をする習性もあり、この時期だけが大人しい。 稀に出産直前の雌魚が著しく体力を消耗するため、 滋養目的で雄を食い殺すと云う実例も有る。 また、威嚇時や繁殖期に感情が高揚した際には、 ひれや体側の発光斑が鮮やかな光を放ち、 滅多に見られることのない美しい婚姻色が並ぶと云う。 本種は冬期になると熱帯海水域へ移動を始める。 年間を通して一定の海域を広く周回する性質も有る上、 稀に汽水・淡水域での発見例もある。 彼らの適応範囲は驚くべきものと云えよう。 |
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