芯を失いかけた一本のロウソクに照らされる、
暗く狭い部屋に机がひとつ、ドアがひとつ、
窓や通気口はなく、部屋の壁は全体的に赤褐色。
その部屋は岩をくりぬいたように、四隅は目張りの跡すらない。

ドアを開けると、その向こうに続く空間には明かりがなく、何も見えない。
不安に思いつつも、静かにドアを閉めることにした。

朽ちかけた机の上に、書き置き見つけた。
引出しは引き抜かれており、椅子もなかったので、
ほかに調べるべきものは何もなかった。

書き置きに署名はないが、
それが、この部屋に居る者に宛てたものであろうことは分かった。
ホコリは積もっておらず、いつ書かれたかは分からない。
乏しい明かりのもとでは、紙面が変色しているかも分からない。

こう書かれていた。


すぐにこの部屋を出なさい。

そして彼らから逃れなさい。

彼らと話してはいけない。

何も憶えてはいけない。

そして最後に、正しい選択をしなさい。

選択が正しくなければ、あなたは多くを失う。

道は正しき者の前に現れる。


よく分からない文章を読み終えると、
閉めたはずのドアが少しだけ開いているのに気付いた。
床には題名も記されていない、さして厚くない古書だけがある。

誰が置いて行ったのだろう。
自分はなぜここに居て、ここはどこなのだろう。
ドアは誰が開けたのだろう。

古書を手に取り、多くの挿絵と文字を流し見ると、
書き置きを残してドアを開け、何も見えない空間を覗いてみた。
部屋にあるロウソクの炎が、燃え尽きようとしている。

ドアの外の左右に伝う壁は、どこまで続いているのか分からない。
そしてドアの外に続く空間の先に、誘うように新たなロウソクが燈った。
炎が現れる時にも、誰かが点火するような瞬間は見えない。

床は何度も汚水が染みたような、表現しがたい色彩を放っている。
炎は壁を照らすことなく、暗闇の真中に光る皿を置いたように見える。

部屋のロウソクは、間もなく燃え尽きる。
もしかしたら、誰かがこの部屋に訪れるかも知れない。
手紙を残しておこう。
これを読んでいるあなたは、私と同じ状況だったろうか。

…『正しい選択』とは、何のことなのだろう。