Anubis

汝、死者の国へと入り来る者。
その魂を秤にかけ、己が行いを読み上げよ。

汝、常世にゆくを望みし者か。
されば魂の純潔を高らかに謳い上げよ。

我が名はアヌビス…骸を捨てし御霊を導く者。

汝、咎を持つ者とあらば容赦はせぬ。
獣の牙に砕かれ、永遠の責苦を受けるがよい。

汝の魂にひとつと咎を見出せば、
我が名に於いて、アーマーンの下へと引き立てようぞ!

Anubis
- inpw -
アヌビス / インプ / インプゥ / アンプ

■2002/10/30作品
■[1600*1200]
■[1024*768]
■[線画]
■[カドゥケウス]

エジプトでの呼称は「インプゥ」で、「アヌビス」はギリシャ人が呼ぶ時に使った名とされ、
現在では、これが一般的であり、その名の意味は、若者、若い犬と訳されます。

黒犬の姿をとり、擬人化されることもありますが、前者はうずくまった黒犬で現され、
首元で交差された、赤いネクタイ状の首輪を付けています。

後者は犬頭の神にして冥府の番人、ミイラ作りを成す者(葬祭を司る者)で、
片手にはアンクを持ちますが、ギリシャでは二匹の蛇が巻きついた杖「カドゥケウス」と、
「棕櫚(シュロ)の枝」を持った姿で描かれ、椰子(ヤシ)の葉を持つ場合もあります。

「ケンティ・セフ・ネチェル(神聖なる小屋の第一人者)」、
「ネブ・タ・ジェセル(聖なる大地の主人)」、
「プシコポンプ(死者の魂を導く者)」
「山の上に居る者」、「洞窟の主人」などと形容され、
彼を示す元素は土で、象徴される色は黒です。

頭部はジャッカルである場合もありますが、
エジプトには、ジャッカルや狼が棲息した痕跡がないという話もあり、
それらのミイラが発掘されているのが不可解です。

山犬が墓地の屍を漁る習性は、死者や死後の世界に関わっていると云う解釈となり、
全ての墓地における最高権力者としてアヌビスが生み出され、
葬祭およびミイラ作りに必要不可欠な神となりました。
実際のミイラ作成に携わる者(神官など)は、アヌビスの仮面を付けたそうです。

古代エジプトにおける、行政・経済・税務上の区画「ノモス」では、
第17・18ノモスを起源とし、多くのネクロポリス(大墓地・死者の町)で信仰されました。

アヌビスの素性は大きく分けて二種類あり、
オシリスを父とし、雌牛神ヘザト、または雌猫神バステト(バスト)を母とするか、
同じくオシリスを父とし、彼の妹である、女神ネフティスとの不義によるとされます。
エジプトでは近親婚が普通で、近親弱勢によって王家が崩壊したという説もあります。

「陽の下に現れ出るための書(19世紀半ば以降での「死者の書」)」では、
オシリスが、彼の弟である「セト」によって惨殺され、各地にばら撒かれた死体を、
オシリスの妻である「イシス」と、その妹である「ネフティス」とが拾い集め、
死体を繋ぎ合わせて蘇生させたのが、アヌビスだとされます。

この後、アヌビスはイシスの養子となって、彼女の護衛を勤めたそうです。
セトのオシリス殺害は、民衆に支持されたオシリスを嫉んでの素行でした。

アヌビスは遺体を監視する役目も担い、死者の世界にある「オシリスの法廷」では、
死者に心臓の提出を求め、これを「ラーの天秤」にかけます。
その僅かな傾きを読み取る役目があるのです。

これは「プシコスタジー(魂の計量)」と呼ばれる儀式で、
片方の皿に死者の心臓を、もう片方には正義の女神マアトの像を載せ、
これがどちらへ傾くかによって、正しき死者であるか否かを判断しました。
即ち生前の行いを鑑み、魂の正当性を検証するのです。

心臓は魂ともされ、魂を計る際の片方の天秤には、「マアトの羽」を載せます。
マアトは、人間の内的正義、宇宙・社会の秩序、真実、均衡を指し、
全創造物を支配する概念でもあるため、基準の分銅となりました。
マアトに従って生きる者は、生前の無罪を証明できるものと考えられたのです。

マアト像(またはマアトの羽)よりも重いと、死者は怪物アーマーン(アメミット)に食われ、
以後、その死者は蘇生(転生)を禁じられるとされます。
プシコスタジーを通過した者のみ、「死者の神の王国」へ迎えられ、
転生(来世への復活)を期待できるものとされました。

また、プシコスタジーにはマアト自身が立ち会うこともあります。
死者の王国は、「イアルの野」または「ヘテプの野」と呼ばれたそうです

この際、アヌビスの傍らにてプシコスタジーや死者の導き、
儀式の記録係を勤めるのが、朱鷺(トキ)の頭を持つ「トト神(ジェフティー)」です。

オシリスの復活後、冥府での実権はほぼ完全にオシリスへと渡り、
このため、冥府におけるアヌビスの神格が下がったとされます。
時期的には、イシスの護衛者となった頃のようです。
またアヌビスには、オシリスに敵対する者と闘う下りも有ります。

なお、イシスの祭儀におけるアヌビスの姿は、
ギリシャ風の装束をまとい、前述のカドゥケス、棕櫚の枝を携えます。
これにより、ギリシャでのアヌビスは、オリュンポス12神の「ヘルメス」、
ローマでは、「メルクリウス(マーキュリー)」と同一視されました。

・後ろの模様は古代エジプトの天球図ですが、
 周りにあしらったアヌビスのヒエログリフを含めても、深い意味は有りません。
 組み合わせても壁画として読めることはありませんので、御了承下さい。

■聴いていた音楽
 ・『ムーランルージュ』サントラ…Hindi sad Diamonds
 ・『ザ・セル』サントラ全般
 ・『オネアミスの翼』サントラ…戦争
 ・『Juno Reactor』…MASTERS of THE UNIVERSE

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