-幕末志士 完全ビジュアルガイド-


■発行:株式会社カンゼン
描き下ろし分10点を担当しています。
2009年末〜2010年2月にかけての作業です。

(その他の情報は、Amazonを御覧下さい)

■「戦国武将ピジュアルガイド」に続き、
幕末志士を扱った一冊となっております。
実家の引越しも済み、少しは余裕ある日程のはずでしたが、
すぐに別件と同時進行となり、いつも通りの展開でした。

この仕事は、正直なところ戦国武将よりも辛かったです。
武将なら、鎧兜なりポーズなり私好みに厳つく出来ますが、
時代が進んだことにより、尖った雰囲気が作り難いのです。
「特徴的な部品が少ない」とも云えそうです。

衣装は裃(かみしも)や袴(はかま)がメインとなっており、
描き分けの面を含め、配色や若干のポーズ差に留まります。

手足が幾つあっても許されるモンスターとは違いますし、
若く(もっと云えば丹精に)描かねばならないので、
改めて自分の弱点を突かれた作業です。

以下は着手した順番です。

■徳川家茂(とくがわ いえもち)
初期ラフでは二十歳代の面持ちでしたが、史実では享年21歳です。
13歳で第14代将軍なので、リテイクで年齢も引き下げられました。

衣装は「直衣(のうし)」を元に描いたつもりですが、
例によって忠実である必要がないことに乗じて、嘘が多いです。
直衣と狩衣(かりぎぬ)が、ごっちゃになっている気がします。
最初は服の構造が分かりづらく、泣きそうでした(今でも)。





■山内容堂(やまうち ようどう)
初期は裃(かみしも)姿な若者が、急なリテイクで全直しです。
これを含めて半数に大幅な修正を強いられ、予定が狂います。
自分のミスではないにせよ、いつものパターンでした。

和服は、洋服には入らないようなシワや縫い目線が入り、
つくりも異なりますから、色々と勉強が必要なのですが、
残念ながら、細かい裏打ちの余裕が許される仕事ではありません。
「知ったかぶり」とか「付け焼刃」というレッテルとの戦いになりました。

10枚中、最も顔が上手く描けたとように思った一枚です。
「似せて描けた」という意味ではありませんよ。

■武市半平太(たけち はんぺいた)
わりと悩まずに描けました。
しかし、ここで悩まないのは「後で悩む」ということです。
案の定、残り8人の大半で衣装をどうするか悩みました。
安易に定番を使ってはならないと云う例です。

これ以降、「掛け襟(かけえり)はこんな寸法じゃない」とか、
「こんな衽(おくみ)の入り方はおかしい」とか、
「そもそも着物とは云えない」など、色々なツッコミがあるかと存じますが、
描いた本人が最も気にしていますので、何卒お黙り下さい。


■吉田松陰(よしだ しょういん)
ようやく「一度で変換できる名前」になりました(IMEです)。
ポーズや衣装は初期と同じですが、髪型と本の注文が入りました。
私は、こういう「片足に軽く重心を預けたようなポーズ」をよく使いますが、
今回の仕事では、着物という衣装もあって多用しています。

着物関係の作業は、最終的に細かい修正が必要になったので、
母から借りた、古い和裁の本を何度も見ながら描き直しました。
なんと1969年の本です。



■伊藤博文(いとう ひろぶみ)
初代内閣総理大臣なんて、仕事と割り切っても描きたくありません。
まして歴史の成績が小学生以下の私には、胃がひっくり返る思いです。
これもリテイクで180度した一枚であり、元は20代の若者でした。

なお、この衣装は大礼服の類に入るものを元にしましたが、
肩章や勲章の有無等、「これ」というデータに乏しかったため、
例によって史実に倣わない創作の範囲であり、それが指定です。

これを筆頭に、「若者として描く」という基本コンセプトが薄くなり、
それに伴って、衣装にもあれこれと注文が入るようになりました。

■大久保利通(おおくぼ としみち)
父がよく観ていた「田原坂」で、近藤正臣さんが演じていて憶えています。
その時からヒゲのイメージがあり、払拭しながらラフを描いたら、
またしても山内内堂や伊藤博文と絡んでリテイクでした。

うっかり近藤正臣さんに似せて描く努力をしそうでした。
衣装は、鹿児島市の大久保利通像から拝借してまとめました。
私が描くとバランスが悪いです。

■安藤信正(あんどう のぶまさ)
上の6人から毛色を変えたかったものの、衣装は限られているため、
せめて顔だけでも……と、この人だけ気難しそうに描いていますが、
当然ながら、仕事の上で個人的な好き嫌いは反映しません。

静かな動きが表現できればと思い、このポーズになりました。
このあたりから、裃の種類で混乱し始めます。

■河合継之助(かわい つぐのすけ)
衣装が衣装なだけに、余計な資料を増やしたくはないものですが、
なんとなく思いついて描き始めたら、意外に上手く行った一枚です。
刀の戦いって「待ち」が気持ちいいですね。

これを手がけるあたりから、テレビの時代劇を見る目が変わりました。
「絵描きは見えるもの全てが教材」とは、よく云ったものです。

左手の表現を頑張ってみました。
■大隈重信(おおくま しげのぶ)
これもラフのリテイクで衣装が全直しになりました。
もともとは大礼服になるはずだった一枚です。
大礼服であればサーベルなどを持たせられますが、
この衣装では無理なので、左手の表現まで変わっています。

これを描いていて思いましたが、どんな服でも「似合う身長」があって、
意図的に等身を多くした場合、何らかの工夫が要るように思えます。

■江藤新平(えとう しんぺい)
いい感じに肩の力が抜けたせいか、顔立ちも気だるいです。
袴の位置が高いように思いましたが、時間切れで微調整できず。

これで最後の一枚であるせいか、殆ど何も憶えていません。
「財布をひっくり返してもホコリ一つでない」という表現と同じく、
頭をひっくり返しても冗談一つ云えないほど疲れていたようです。



以上、10点でした。

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