-三国志 完全ビジュアルガイド-

■発行:カンゼン
10点を担当しています。
2011年1月〜2月にかけての作業です。

(その他の情報は、Amazonを御覧下さい)

■「聖書の人々」に続くシリーズの一冊です。
三国志における名だたる武将、軍師などが収録されています。

私は三国志にさっぱり無知で、むしろ周囲の人間が詳しいため、
今回、幸いにも大の三国志ファンである後輩が居てくれたおかげで、
少なからず名前や素性を憶えるに至り、別の意味で学習の多い仕事でした。

大体の場合、描く前に「誰を描きたいか」と希望を聞かれるのですが、
上記の通り三国志に詳しくない私は、仕事であることを伏せ、
後輩に好きな武将を挙げてもらうことで半数ほどが実現しています。

ただし、注文イメージとして「三国無双」のような華美なものを避け、
現実的な作風を求められたため、創作は半分くらいに留めました。
折りしもテレビで「レッドクリフ」が放送されていたこともあり、
名前や当時の文化水準を知るには丁度いい時期でした。

しかし、一つ前に手掛けていた仕事が音信普通になるなどトラブルが生じ、
一ヶ月近くスケジュールが混乱したため、いつも通りの強行軍でした。
私のミスでないことだけが救いです。

全体的に髭(ひげ)をたくわえた人物が多いことから、
通常よりも顔立ちや表情による描き分けが重要になっています。
兜をかぶった作品が少ないのは、描き分ける上で自分に設けた課題です。

衣装は指定があったり無かったりと一定しなかったため、
「イメージに沿わない」と思われるかも知れませんが、御容赦下さい。

(反省の多い仕事となったため、今回はサンプルなしです)


■新装版■
■魏延(ぎえん)
張り出した後頭部は「反骨の相」とされ、主君を裏切るものと考えられたそうです。
最初に手掛けた一枚ですが、9枚目あたりで戻って加筆しています。
多少「悪っぽく」というのが指定でした。

これ一枚だけ少し華美にするつもりが、出来上がってみるとこの通り。
ほかの人物も似たり寄ったりなので、均衡は取れたかなと思います。

■馬謖(ばしょく)
「泣いて馬謖を斬る」の語源になった人物です。
ラフ直しがなかったのでそのまま描いてしまいましたが、
今見ると華がないので、もっと描き込めば良かったと感じています。

この一枚から、鎧を除く衣装はレッドクリフに多い地味なものが求められ、
結果として、これ以降は全体的に色合いも大人しくさせています。
ホウ徳(ほうとく)
「ホウ」の字が出ません。
左手の武器(「戟(げき)」)は指定ですが、あまり強そうに見えませんね。
棺を担いで戦場に立ったという逸話も、今回は指定で採用されていません。

ここから髭をたくわえた人物が増えたため、顔の描き分けを重視し始めました。
勇猛果敢な顔立ちというと、どうしても表情が偏って退屈になってしまうので、
この一枚からは努めて「あと数人いる」と心掛けながら描いています。
■曹叡(そうえい)
美しい長髪であったそうですが、指定になかったので採用していません。
中国と日本では着物の構造に違いがあるようで、苦労しました。
図書館も頼って資料を集めたものの、あまり解決しませんでした。

横顔だからごまかせていますが、あまり馬謖との差がない顔です。
描き分けって本当に難しいですね。

■周瑜(しゅうゆ)
「レッドクリフ」でも中心的人物の一人として登場しています。
これは唯一の例外として衣装(鎧を含む)の配色が指定になっています。
本書では紹介ページとは別にも掲載されたため、バランスを図ったものでしょう。

剣を構えて、ぐっと腰を落とした雰囲気を描いたつもりですが、
今見ると目つきが悪く感じるので、ちょっと失敗したかなと思います。

■黄蓋(こうがい)
後輩が「イメージ通りだ」と気に入っていました。
老将軍として描かれることが多いそうで、ここでもそれに倣っています。

描く上ではあまり苦労がなかった一枚でしたが、
手にした鉄鞭(てつべん)と呼ばれる武器は紐状でなく鉄の棒であるため、
なかなかこれと云った資料に恵まれず、あまり描き込めないままになりました。

中国での「鞭打ち」というと、この鉄鞭らしいですが……もう撲殺ですよね。
■周泰(しゅうたい)
これ一枚だけポーズが他と異なるのは、顔の描き分けに限界を感じたからです。
2点後の「紀霊」と並べた時、あまり差を感じない気がします。
指定としては肌の傷や破れた服などがあっただけです。

いつもならもっと描き込むところですが、この時点で工期が残り少なかったため、
残り3点にかけて、かなり焦っていた記憶があります。


■諸葛恪(しょかつ かく)
諸葛亮の甥にあたる人物だそうですが、
その才気に反して思慮深いとは云えない人物だったようで、
その部分だけを取り出し、いわゆる「嫌な顔」として描いています。

こういう顔立ちを描くのは面白いです。
いつもとは違う道を歩くような感覚で、仕事にメリハリを作るには最適でした。
■紀霊(きれい)
手にした三尖刀は指定です。
これは10点の中で最も描き分けに困った一枚でした。
最後の「徐栄」を目の前にして、頭が空っぽになったからです。

結果、鎧に多少の差を設けただけで力尽きてしまい、
全体を通して見た時に退屈な作品となってしまいました。
仕事の終盤としては反省が多いです。
■徐栄(じょえい)
今回描いたものの中では、顔が最も良く描けたと思いました。
良い顔という意味ではなく、「人間臭く描けた」という意味です。
「どこかで見たような顔」を目指して描いています。

男性独特の「むさ苦しさ」は出せたかなと思います。
ちょっと自信がついた一枚でした。

以上、10点でした。

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