-日本の神々 完全ビジュアルガイド-


■発行:カンゼン
10点を担当しています。
2010年4月〜6月にかけての作業です。

(その他の情報は、Amazonを御覧下さい)

■「戦国武将」、「幕末志士」のシリーズに続く一冊となりますが、
今回は古事記などに登場する、日本の神々を解説しています。
イザナギ、イザナミのような有名なものから始まり、
聞いたこともない神々の名前もあるようです。

珍しく別件に縛られず、この依頼のみで仕事が完了しましたが、
途中のラフ直しで時間をとられ、ギリギリでの入稿でした。

別件がないのを利用して、色々と挑戦してみた仕事でもあります。
見た目としては「どこが?」と思われるかも知れませんが、
自分の中に、幾つかの機器を増設するつもりで描きました。
作業工程も見直しています。

サンプルは2点公開です。


■新装版■
■水蛭子神 (ヒルコノカミ)
ラフが2回全直しになっています。
最初はミイラのような姿で、次に「不具の子」でしたが、
先方が「イメージとして気持ち悪いのはちょっと……」となってしまい、
結果的に、その最終形となる恵比寿(エビス)を描くことになりました。

私としては、どうしても「妖怪ハンター」のイメージが強すぎます。
むしろジュリーの顔がダブるくらいです……まさおく〜ん。

漁師のイメージなのに、肌が生っ白いのがダメでした。
■大山津見神 (オオヤマツミノカミ)
この姿になったのは担当さんの一言に始まります。
「サイト作品の『エロンガータ』みたいなイメージは?」と云われ、
調子に乗った私は、趣味まる出しなデザインにしてしまいました。

とは云え、一番の遊びは羽衣(帯?)の形です。
本書にて御確認下さい。

この一枚に始まり、仕事を借りて実験をしてみることにしました。
■綿津見三神 (ワタツミサンシン)
両手に持っているのは「潮満玉・潮干玉(しおみつだま・しおひるだま)」です。
「山幸彦と海幸彦」の話にて、山幸彦に贈られた潮を操る玉です。
上津、中津、底津の三神にも分けられますが、今回はスペース的な問題で一つです。

「ワダツミと云えば」のつもりで、これにはモデルがありまして、
諸星大二郎氏の「海神記」に登場する塩土(しおつち)が元になっています。
似せて描いたわけではないので、全くの別人になっていますが、
この本、持っているのは3巻だけです。

■八雷神(ヤクサノイカヅチノカミ)
死せるイザナミの、頭部、胸部、腹部、陰部、四肢にとりついた黄泉の八雷神。
8体描くのはスペース的に問題となったため、担当さんと相談し、
一体の8ヶ所に座するという、シンボル的な発想になりました。
羽衣のような帯を2本取り回すのは、ここから始まっています。

それぞれ、「頭の大雷(オオイカヅチ)」、「胸の火雷(ホノイカヅチ)」、
「腹の黒雷(クロイカヅチ)」、「陰(ほと)の折雷(サクイカヅチ)」、
「左手の若雷(ワカイカヅチ)」、「右手の土雷(ツチイカヅチ)」、
「左足の鳴雷(ナルイカヅチ)」、「右足の伏雷(フスイカヅチ)」となります。
■八十禍津日神・大禍津日神 (ヤソマガツヒノカミ・オオマガツヒノカミ)
これは自分にとって大きな冒険でした。
普段の自分なら絶対に描かないタイプのデザインです。
抽象的なイメージだけで始め、そして完結させています。

有り余る呪力を16本の帯で制御する感じでしょうか。
イメージとしては呪術師や妖術師です。

この一枚がもたらした経験は大きく、自分の殻を少し破ることが出来ました。
心や発想は、常に自由であるべきですね。

■阿遅志貴高日子根神 (アジスキタカヒコネノカミ)
「天若日子(アメノワカヒコ)」と揃って一人の作家が2枚を担当するはずでしたが、
手違いで別々に発注されてしまい、その一人が私でした。
片方に似せて描くよう云われたものの、まだ完成していなかったので、
ラフにも手直しを加えましたが、ほとんど博打気味に描いています。

彼は天若日子(アメノワカヒコ)の喪屋を切り伏せた話が有名であるため、
最初は剣を持たせていたのですが、先方の意向で廃案となりました。

■建御名方神 (タケミナカタノカミ)
タケミカヅチ神に腕をもぎ取られる話(説)は有名ですが、
できるだけ両腕は揃えておきたいという先方の意向と、
その勝負が相撲のルーツという説もあるそうなので、
腕力にものを云わせる一枚にしました。

帯でグルグル巻きにしてあるのは、相撲の「まわし」のイメージです。
まわしは下半身だけですけれども。

■猿田毘古神 (サルタヒコノカミ)
天狗(テング)のルーツという説もある神です。
もしかして、古代の日本人はテングザルを見たのでしょうか。
燃えるように赤い眼と、異常に長い鼻と、その巨体。

「振り向いた顔がこんな顔だったら」という、ギョッとさせる顔にしましたが、
顔はともかく、やはり大男は描いていて楽しいです。

■石長比売命 (イワナガヒメノミコト)
ここに来て途端に集中力が上がりました。
ねじくれ湾曲した大樹を、下から見上げるようにイメージして描いたので、
左下から、腰→胸→顔→羽衣へと抜けるように見て頂けると嬉しいです。

「醜さの美しさ」を表現したくて、髪はとくに暴れさせました。
ちょうど、書道の行書と草書の間くらいを意識しています。
不老不死の象徴たる彼女に美貌を与えなかった古代日本人。
不死性に、願いよりも忌みを見出したのが興味深いです。

■武内宿禰 (タケシウチノスクネ)
数々の天皇に仕え、300年以上を生きたとされる伝説の人物です。
この人物というと、変に仰々しく飾り立てるのも「らしくない」ので、
歴史の暗部を知る、「見た目はただの老人」を意識して描きました。
そのため、とくに自己主張するような点はありません。

なんとなく執事のイメージです。
どこで呼んでも傍に控えていそう。


以上、10点でした。

[Back]