点在する小島に囲まれた大陸イスクニシュは、
半世紀前の大水脈崩壊により大陸が南北に分断され、
獣の巣と呼ばれた巨大洞窟ドルガン・ドレフールも崩れた。
巣をつつかれた獣は行き場を失い、獲物を求めて大陸全土を荒らし回り、
各地を縄張りとして繁殖し、その狭間で勢力を衝突させ大災害をもたらす。
古来からの研究で霊術を発展させた人類は、辛くも全滅を逃れたが、
その源となるエネルギーは水脈の崩壊によって失われた。
広く生活に浸透した力を奪われ、人は再び裸になる。
地底深くには、水脈からの波動干渉を受けた特殊な鉱脈が沈黙していた。
しかしそれらは埋蔵量に乏しく、人々の希望は絶えるかに思われた時、
過去に開発された霊術との併用が考案される。
これこそが今日、人の新たな希望となった力、「エーテル」である。
鉱脈を断つことなく、他の物質に帯伝させることにより、
微量ながら使用を可能とし、人々は文明の完全崩壊を免れた。
依然として勢力を拡大する獣の群れは、地上を我が物顔で跋扈していたが、
人々は「波動塔」と呼ばれるエーテルを帯びた巨石を作り出し、
それを生活の拠点となる集落に据え、その霊的作用で襲撃を回避した。
ここに至るまで、人々は200年以上の時を費やすこととなる。
なおも獣の勢力は拡大を続け、もはや人々は完全に出遅れていた。
新たな希望の光を得た人類は、この世界では後進の種族でしかなかった。
そして現在、人々は波動の周辺に数々の街を形成し、
それぞれが都市となる、新たな生活圏を展開させていた。
水脈の崩壊と、永い文明再建に予想以上の時を費やし、
生活圏の外周に関する情報が失われ、さらに数百年を経た今、
かつて人の生きた大地は、未開の警戒対象となった。
人々は謎と獣の脅威に怯えた。
森と大地はどこまでも続く。
そこには獣のほかに眠り続ける者も居た。
命を冒涜する獣、命を奪われる人々、そして眠れる者。
それでも人は、そこに息づき、そこに存え、そこで死ぬ。
その中に、微力ながら獣の力に抵抗する人々の姿があり、
鍛冶屋エニ・ユミルと、それを取り巻く静かな人間模様が在った。
彼らが、まだ己が何者であるかも知らなかった頃である。
彼らの祖先が何を失い、どうなったのか、それを知る少し前の話―――
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